正直に言うと、私は退職金を受け取った直後に、よく分からない投資信託を300万円も一括で買ってしまいました。38年間まじめに働いて、やっと手にした2000万円。その使い道を、銀行の窓口で「退職おめでとうございます」と笑顔で言われた5分後に、ほぼ勢いで決めたんです。人生で一番高い買い物を、人生で一番ふわふわした気分で決める。我ながら、完成度の高い失敗でした。
半年後、基準価額は15%下落。計算上は45万円が消えた形です。夜中に布団の中でスマホを開き、評価額をリロードしては胃をキリキリさせる日々。「もう投資なんて怖い」と言いながら、毎晩ちゃんとリロードしていました。口と指が完全に別人格です。
いま、退職金をどうするか悩んで、夜にこの記事へたどり着いた方へ。迷って当然ですし、慎重になるのは臆病ではなく、大切なお金を守ろうとしている立派な姿勢です。63歳から始めても遅いかな、と不安になる気持ちも、私は痛いほど分かります。この記事では、失敗した私がどうやって「積立投資」にたどり着き、1年続けて何を感じたかを、良いことも悪いことも正直に書きます。
先にお伝えします。投資信託は元本が保証されておらず、価格変動によって元本割れする可能性があります。将来の成果も保証されません。この記事は私個人の体験であり、特定の商品や方法を勧めるものではありません。実際の判断はご自身の責任で、必要に応じてファイナンシャルプランナーや金融機関などの専門家にご相談ください。
退職金運用で私が学んだ5つのこと
- 退職金の一括投資は、値下がりしたときの心へのダメージが大きい
- 投資に回す前に、生活費と医療費の分を先に確保する
- 積立は購入時期を分散できるが、元本割れのリスクは消えない
- 月々の金額は、背伸びせず続けられる範囲にする
- 値動きは見すぎない。見すぎると、運用より先に自分が疲れる
退職金の一括投資で痛い目を見た話
退職したとき、手元にあった退職金は約2000万円でした。現役時代は忙しさを言い訳に資産運用を考えたこともなく、預金通帳の残高を眺めるのが精一杯。年金だけでは心もとない、でも何をすればいいか分からない。そんな状態の私に、取引先の銀行から連絡が来ました。
「特別金利の定期預金キャンペーン」の案内です。ただし条件は、投資信託もセットで購入すること。担当者は「今がチャンスです」と熱心に説明してくれて、過去の運用実績のグラフも見せてくれました。右肩上がりのきれいなグラフを見ているうちに、私の頭の中でも何かが右肩上がりになりました。気が大きくなった、ともいいます。
結果として、深く考えずに300万円を一括で投資。妻には「プロに任せれば大丈夫」と偉そうに言い切っていました。その数ヶ月後に基準価額が下がったとき、この発言がブーメランのように返ってきて、夫婦の会話は一時かなりぎくしゃくしました。ブーメランは、投げた本人に一番よく当たります。
ここで痛感したのは、「一括投資は精神的にきつい」ということです。若い頃なら「長期で見れば大丈夫」と思えたかもしれません。でも63歳の私にとって、その「長期」がどのくらいあるのか、正直分からない。もう働いて取り返すのも難しい。その不安が、夜中のスマホ確認という形で毎晩出てきました。
もし今、同じような失敗や不安を抱えている方がいても、自分を責めすぎないでください。知らなかったのは、これまで投資に触れる機会がなかったからで、あなたの落ち度ではありません。私もそう言い聞かせて、なんとか眠れるようになりました。
積立投資という、地味な方法に出会った
落ち込んでいた私に声をかけてくれたのが、証券会社に勤めていた経験のある大学時代の友人です。状況を話すと「積立投資に切り替えたらどうだ」と言われました。
積立投資とは、毎月決まった額をコツコツ買っていく方法です。購入のタイミングを分散できるので、高値で一気に買ってしまうリスクを和らげられます。いわゆる「ドルコスト平均法」というやつです。ただし、これは値下がりを防ぐ仕組みではありません。相場が長く下がり続ければ、積立でも損失が出ることはあります。
最初は半信半疑でした。「63歳ですよ。20代が30年かけて資産を作るのとは違う」と。すると友人は「10年でも15年でも、人生は続くだろう。焦って大損するより、ゆっくりのほうがいい」と言ってくれました。確かに、平均寿命を考えれば、私にも20年以上の時間があるかもしれません(もちろん個人差はあります)。「もう遅い」と決めつけるのは早計でした。孫の顔を見るまでは元気でいたい。その頃に少しでも育っていたらうれしい。そう考えたら、少し前向きになれました。
夜、布団の中で天井を見つめながら「今さら意味があるのか」と何度も考えました。結論は出ませんでしたが、天井はずっと無言で、アドバイスをくれませんでした。
投資に回す金額を決める前に、先に確保したお金
積立を始めるうえで、私が一番慎重になったのは「いくらまで投資に回していいのか」です。退職金2000万円といっても、これは老後の暮らしを支える大切なお金。全部を投資に回すわけにはいきません。私は次のように分けました。
- 向こう3年分の生活費として500万円:普通預金と定期預金に確保。年金だけでは毎月5万円ほど足りないので、その補填分です。
- 医療費などの備えとして300万円:この年齢になると、いつ大きな病気をするか分かりませんから。
- 最初に失敗した300万円:授業料として、いったん別枠に。
- 残りの900万円:ここが「投資に回してもよい」と考えた上限の目安です。
念のためですが、900万円をすぐ全額投入したわけではありません。実際の積立は、毎月5万円から始めました。目安の枠があっても、最初から背伸びはしない。ここは一括で痛い目を見た私なりの反省です。なお、これはあくまで私の場合の話で、適切な金額は、家族構成や年金の額、健康状態によって人それぞれ違います。
投資は、なくなっても生活に支障が出ないお金で行うもの。耳にタコができるほど聞く言葉ですが、身をもって経験するまで、その重みは分かりませんでした。退職金のように「代わりがないお金」ほど、最悪の場合を想定しておく必要があります。
口座とファンド選び:私がやったこと
始めるにあたり、まず検討したのが新NISAです。私が始めた当時の制度では、つみたて投資枠と成長投資枠を合わせて年間360万円まで、運用益が非課税になります(つみたて投資枠は年間120万円まで)。年金生活の身には、運用益に税金がかからないのはありがたい仕組みです。ただし、制度の内容は今後変わる可能性があるので、利用する際は必ず最新の情報を公式サイトなどで確認してください。
私はSBI証券でNISA口座を開設し、つみたて投資枠で毎月5万円の積立を始めました。選んだのは、手数料が低めのインデックスファンドです。eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)を中心に、国内債券のファンドも少し組み合わせています。株式100%は、この年齢の心臓にはさすがに負担が大きいので。ファンドの内容や手数料は、必ず各社の最新の資料で確認してください。
1年間続けて分かったメリットと、正直なデメリット
積立を始めて約1年。感じたことを、良い点も悪い点も隠さずに書きます。
メリットだと感じたこと
- 気持ちが楽になった:一括のときは毎日値動きが気になっていましたが、積立では「下がったら多く買える」と考えられるようになりました。スーパーの特売日を喜ぶ感覚に近いです。貧乏性が役に立つ日が来るとは思いませんでした。
- 手間がかからない:毎月決まった日に自動で買われるので、操作は不要。スマホはボケ防止に触る程度の私でも続けられています。
- 夜中のリロードが激減した:妻が一番喜んでいます。私より妻のほうが、ぐっすり眠れるようになったかもしれません。
- NISAの非課税メリット:運用益に税金がかからない点は、やはり心強いです。
デメリットや注意点
- 増えるスピードはゆっくり:この1年で積み立てた60万円は、確認した時点で約66万円でした。約10%と聞こえはいいですが、大儲けとは程遠いです。しかもこれは私の場合の、その時点の数字にすぎません。相場しだいで、増えることも減ることもあり、今後も同じようになる保証はまったくありません。
- 元本割れのリスクは消えない:積立でも、相場が長く下落すれば損失が出る可能性があります。「絶対に安全」はありません。
- 暴落時に売りたくなる:「今売ったほうがいいのでは」という考えが頭をよぎります。続けることが肝心な方法なので、この誘惑との戦いは想像以上でした。
- 一括のほうが成績がよかった可能性:相場が右肩上がりの時期なら、一括投資のほうがリターンが大きいこともあります。
- 時間と労力がかかった:毎月の額を決めるまでに悩み、勉強に時間を取られ、退職後にやりたかった趣味の時間が減りました。
- 「もっと早く始めていれば」という気持ち:正直、今でもあります。でも過去は変えられないので、残りの人生で一番若い「今日」から考える、と割り切っています。
※投資信託は元本保証ではありません。基準価額の下落により、投資元本を割り込む可能性があります。
63歳からの積立で、私が決めた3つのルール
この1年で、私なりのルールができました。同世代の方が考えるときの材料になればうれしいです。
- 生活費・医療費は別に確保する:急な医療費や介護費用が必要になっても、投資を取り崩さなくて済むようにするためです。
- 月々の金額は無理のない範囲で:年金収入と生活費を計算して、「これなら続けられる」という額にしています。背伸びすると苦しくなり、途中でやめたくなります。
- 値動きを見る回数を減らす:最初は毎日見ていましたが、いまは月に1〜2回程度。見すぎると不安になるだけでした。代わりに、その時間で妻と散歩に出かけるようになりました。運用成績より健康のほうが大事ですからね。ただし、散歩中にもスマホを取り出しかけて、妻に無言で見られることはあります。
振り返ると、一括投資で失敗したからこそ、積立の良さも怖さも分かった気がします。高い授業料でしたが、いまは穏やかな気持ちでお金と向き合えています。
まとめ:積立投資が向かない人もいます
正直に言うと、積立投資は全員に向いているわけではありません。まとまった資金があり、相場を読む自信がある方には、一括のほうが効率的な場合もあります。投資そのものにストレスを感じる方や、元本割れを絶対に受け入れられない方、数年以内に使う予定のお金には、預金や個人向け国債などのほうが合っているかもしれません。
それでも、私のように投資経験がなく、一度失敗して臆病になった人間には、「小さく始めて、コツコツ続ける」スタイルが気持ちの面で楽でした。興味を持たれた方は、まず少額から検討してみてください(最低金額は各社で異なるので、必ず確認を)。いずれにしても、投資の判断はご自身の責任で行い、迷ったときはファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談してください。
63歳で一括投資に失敗した私が、いまは夜ちゃんと寝ています。それだけでも、この1年にはじゅうぶん意味がありました。あなたの大切な退職金が、あなたのペースで、あなたの安心につながりますように。
※この記事は私個人の体験に基づくもので、数字は執筆時点のものです。金融商品には元本割れのリスクがあり、将来の運用成果を保証するものではありません。
この記事は、運営者(Ikuo)が自分自身で調べ、まとめた内容です。専門家による監修を受けたものではありません。より詳しい・個別の判断が必要な内容は、専門家や各サービスの窓口に直接ご相談ください。

コメント